大好きなシュークリームを扱っている、
商店街の洋菓子店「郷屋」の前でのこと。
それは、一学期の期末試験を間近に控えた日。
あたしは久しぶりに、鬱陶しい幼なじみと再会した。



「じゃあなによ」
 むすっとした顔で問いかけるあたしに、奏人は空気を読まない笑顔で言い切った。
「神さま!」
「だからそれをオカルトっていうのっ!」





自称「神さまが見える」幼なじみ―― 奏人。
あたしはこいつが、鬱陶しくて仕方ない。
あたしは非科学的なこともオカルトも、バカも、大嫌いなのだ。






 ざっと風が吹く。
 森の間を抜け、神社をかすめ、どこかへ向かって吹いていく。
 スカートが揺れ、臙脂のリボンタイもかすかに揺れる。
 奏人の白いシャツが少しはためいた。












 神さまなんてものがもしいたのなら。
 誰も泣かないでしょう? 誰も苦しまないでしょう? 飢餓だって戦争だって災害だって、起きないはずでしょう?





 だけど、世界はまだそれに溢れてる。




 ――ああ、そうか。
 ふと、理解った。








 あたし、あたしが一番、嫌いなんだ。
















「幻覚だよ。神さまなんていないよ、奏人」
―― 加納柚李葉ゆずりは  主人公










「僕はずっと、完全無欠に、ゆずちゃんの味方だよ」
―― 森繁奏人   自称「神さまが見える」 ゆずの幼なじみ









「わたしにとって、ゆずりはちゃんは憧れだった」
―― 柏木遥 ゆずのクラスの学級委員長







見るって何。
見守るってどういうこと。
そんなの、誰にでもできることじゃない。




でも、本当は――





それは、田舎の夏のちいさな、ちいさな、お話。



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