■第一章:天才は天災を拾う 2


 ひんやりとした手が額に触れる。トスティナは思わず目を閉じて、その手の持ち主の声に耳を傾けた。
「ん、大丈夫ね」
 涼やかな川のせせらぎのような声。そっと手が離されて、トスティナは目を開けた。
「ありがとうございます」
「いいえ」
 小さく微笑んだのは、木の卓をはさんで向かいに座る女性だ。月明かりを集めた絹糸のような短い髪に、冷たい水を模した瞳。白い肌。その彼女を包むのは深紅の長衣で、鮮やかに彼女を惹きたてている。同性であるトスティナでさえ、一瞬息を呑んでしまうような美しい人だ。
 彼女は伸ばしていた手を下ろし、紅茶が注がれた木杯を持ち上げる。
「どうだ、カーラ」
 その女性の横で相変わらず渋面のまま腕を組んで立っているのは、対照的に真っ黒なミズガルドだった。カーラとミズガルドの年齢は近いのだろう。大人ふたりの鮮やかなコントラストをきょときょとと見比べて、トスティナは一人で納得していた。
 今日は風と自称していたアグロアはいなかった。そのため、この女性が訪ねてきてくれてトスティナは少しほっとしていた。ミズガルドとふたりきりだと、さすがに少々いたたまれなかったのだ。
「問題ないわ。少し熱にあてられただけね。発見も処置も早かったのね」
「そうか」
「貴方何かした?」
「特に。煎じたミグの葉を水で与えたのと、後は冷やしただけだ」
「さすがいい処置ね」
 カーラと呼ばれた女性が頷く。ミグの葉、が何かは知らなかったが、何やらありがたいことだけは判った。昨晩も今朝も、ミズガルドは食べやすいスープを作ってくれたので見かけによらずいい人らしい、とトスティナは判断している。
「動けそうか」
「問題ないでしょう。無理は禁物だけどね」
 ふと、トスティナは目を丸くした。軽く肩をすくめるカーラの長衣の襟元に、ちいさく輝く印章を認めたのだ。指先ほどの盾に似た形で黒く、縁取りは金色だ。その中に、七の文字と魔法の杖が絡み合った図が彫られている。
「気になる?」
 カーラが気づいたようだった。トスティナは頷いて、小さく囁いた。
「宮廷……魔法師さん」
「宮廷魔法師は職業名だから、さんはいらないわよ。正解。よく知ってるのね」
「おじいちゃんが教えてくれました」
「そう。良かったわね」
 微笑まれ、何だか気恥ずかしいような誇らしいような気持ちになって頷いた。養父のことを良く言われるのは、いつだって嬉しい。
 宮廷魔法師――養父が言っていた言葉を思い返す。【国王の為の七人】(キングズ・セブン)とも称される、宮廷付の魔法師たちのことだ。
「それにしても」
 ふ、と女性が小さく息を吐いた。足もとをまとわりつく猫と――それから、部屋のあちこちにいる栗鼠やら鳥やらを見渡す。
「ミズガルド、貴方の拾い癖は知ってたつもりだけどね」
「……悪かったな」
 むすっとミズガルドが呻いた。カーラの言いたい事は、トスティナにも何となく判る。今朝になって部屋を出ることを許されたトスティナが目にしたのは、その雑然とした光景だったからだ。猫は昨日の二匹どころか七匹もいて、それぞれ好き勝手に動いていたし、その上栗鼠やら鳥やらといった猫にとってはご馳走になりかねない生き物たちまで、数えるのが億劫になるほどいた。しかもそれぞれ奔放に生きているように見えるのに、争いは起きていないらしい。存外、平和なようではある。ただ、部屋の中で気を抜くと何かを踏みそうな有様ではあった。
「また増えてるんでしょうね、というのはあれよ、覚悟はしていたわ。来る度に何か増えているのはね」
「……」
「けど、普通拾う? 女の子なんて」
 自分のこと、だったらしい。アハ、とトスティナは乾いた笑いを漏らした。ミズガルドが半眼を向けてきているのが判ったのだ。
「目の前で倒れられたら、拾うしかないだろう」
「判らないでもないけど、驚くでしょう。女の子が落ちてたから拾ったなんて。悪い冗談かと思うわよ普通」
(せめて保護とか……言わないかなぁ……)
 大人ふたりの無遠慮な会話にトスティナは胸中で呻いたが、当然相手には聞こえないらしい。聞こえたところで改めるとも思えないし、実際拾われたのは確かなので黙っていることにした。
「で、どうするのよこの子。えーと、トスティナ、よね?」
 急に話を振られ、トスティナは慌てて頷いた。
「はい。ティナでもいいです」
「ティナね。貴女、どうするの? ご家族は?」
 問いかけに少し口を噤んだ。昨日は混乱していたせいもあって反射的に答えていたが、どう言えば正しく伝わるのか難しい。唇に指を当て思案しながら、ゆっくりと言葉を選ぶ。
「両親とかはもともといなくて……えと、気付いたらいなかったので、おじいちゃ……あー、えと村長さんに育ててもらってたんです」
「そう」
「でも、えと、村、昨日で追い出されちゃって」
 結局、事実は曲げられずそのまま伝えるしかなかった。沈黙が落ちる。カーラが曖昧な顔で笑っている。
「……何やったの、貴女」
「わかんないです」
「カーラ。スレヴィの天災だ」
 見かねたのか、肩に栗鼠を乗せたミズガルドが口を挟んできた。とたんに、カーラの表情が険しくなる。
「スレヴィの天災。貴女が?」
「はいー。そう呼ばれます。どうしておふたりとも知ってるんですか?」
 単純に疑問だった。この歳になるまで、村の外に出たことはほとんどなかったので外での話などそう聞かないが、逆に言えば村の中での呼び名など、外の人間が知っているようなものでもないと思っていた。しかし、カーラは長い睫毛で目元に影を作り「ちょっとね」とだけ呟いた。
「じゃあ、本当に貴女これからどうするの? というより、どうしようとしていたの」
「あ。えーと、街に行こうと思ってました。スティンブルグならきっとお仕事もあると思って。だから向かおうとしてたんですけど、えと、迷っちゃって」
「なるほどね」
 苦笑されて、照れ隠しに笑った。ミズガルドが嘆息するのが聞こえる。
「カーラ。頼めるか」
 短い言葉に、カーラが眉根を寄せた。
「街に送り届けろって?」
「頼めるか、と聞いているだけだ。無理なら風をよこす」
「……無理じゃないわ。そういうんじゃなくて」
 静かにカーラが首を振った。
「いいの、それで」
「――ああ」
 ミズガルドの首肯。トスティナは慌てて椅子から立ち上がった。自分のことのはずなのに、大人たちが勝手に話を進めていることに驚いたのだ。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
「なんだ。君はもともと、そのつもりだったのだろう?」
「そっ、それは昨日までで……だって」
 言いたいことが先に頭の中にどんどん溢れていくものだから、言葉が追いついてこない。だ、とか、で、とか、えう、だとか。意味を成さない音を何度も漏らしてから、ようやくトスティナは言いたい言葉を吐き出した。
「わたし、弟子になるといいました!」
「認めてない」
 間髪入れずに返ってくる言葉に、トスティナは反射的にぎゅっと目を閉じた。が、すぐにこじあけ、ミズガルドの深く黒い目を見つめ上げる。ミズガルドもまた、静かにこちらを見返してくる中で、カーラがけだるげな声を割り込ませてきた。
「ミズガルド、貴方弟子をとるの?」
「とらん」
 むすりと、またも否定される。そんなに力いっぱい否定しなくても、と思わず拗ねたくなる。ミズガルドは相変わらず、渋い顔のままだ。
「魔法、覚えたいんです」
 訴えるように、トスティナは告げた。
「おじいちゃんが言ってました。誰でも、学びさえすれば魔法は使えるって」
「ええ、そのとおりね」
 頷いてくれたのはカーラだった。少しだけほっとして、言葉を続ける。
「十五歳になったら村を出て行くのは決まっていたし、おじいちゃんはいろいろ教えてくれました。でも、どうやってお仕事選んで、どうやって生きていくのかはやっぱり難しいと思うんです。おじいちゃんは、魔法だけは教えてくれなかったし」
 とくに、村じゃなく街でなんて、どんな場所かも良く判らないのにどうやって生活していけばいいかなんて実感が沸いていなかった。
「ちゃんと、あの、学んで何か出来る事があれば、生活していけると思って」
「驚いた。意外といろいろ考えているのね、ティナ」
「……わかんないです」
 考えているのかいないのかは、自分では良く判らない。だから小さく首を振って、トスティナは軽く息をつく。自分の汚れた靴を見ながら、呻くように言った。
「おじいちゃん、魔法が嫌いみたいでした」
「そう。まぁ、嫌う人も少なくないわね」
「でも」
 顔を上げる。ずっと、胸の奥にしまっていた疑念を声にする。
「昔おじいちゃんが、一回だけ言ったことがあるんです。……魔法は、いつかお前を助ける術になるかもしれない、って」
 カーラが目を細めた。何かを逡巡するように、手のひらで口を覆う。それから、すっと視線をミズガルドに滑らせた。
 ミズガルドはただ、静かに首を振るだけだった。
「――魔法はそんなに良いものでもない」
 トスティナは自身の中に渦巻く気持ちを忘れて、思わずミズガルドを正面から見据えていた。
 その声に含まれる思いに、何故か、自虐めいたものすら感じたからだった。



「まァったく、あンのひと嫌い何とかなンねぇのかねェ」
 カーラにつれられてミズガルドの家を出たとたん、トスティナの頭上から降ってきたのはそんな明るい声だった。
「アグロア、いたんですね」
「なーんとなくねィ」
 へへっ、と笑うアグロアに、トスティナもほっと笑みを返した。そのまま、そっと肩越しに出たばかりの家を振り返る。家――というには、少しばかり簡易すぎる気もした。材木を適当に組み合わせただけのようにさえ見える、小さな家。屋根を赤く塗っているのが、最低限の装飾といえるかもしれない。しかし住居というよりは森の管理人の仕事場、とでも言ったほうがしっくりきそうではある。
 それが、白い森の中にそっと、人目を憚るように立っている。木漏れ日をうけても、何故か少し物寂しい気配があった。
「まぁ、あまり気にしないのよ」
 そう言ってぽん、と背を叩いてくれたのはカーラだ。こくん、とトスティナは小さく頷いた。考えたところで出ない答えならば、考えるのを一時やめるほうが精神衛生上いいと知っている。
「そうそう、気にしたって仕方ねェかンなァ」
 くる、と空中で器用に一回転したアグロアに、思わずトスティナは笑みを漏らした。
「アグロア、上手です」
「へ? ああ、これかィ?」
 言ってアグロアはくるん、ともう一回転する。
「そらオイラァ、風だかんな」
 風。それはミズガルドも言っていた言葉だ。トスティナは少し首を傾げ、
「風」
 と、反復した。カーラが軽く頷く。
「そうよ。風。知らないかしら、民のこと」
「――民!」
 思わず大きな声を上げる。それなら知っていた。ただ、まさか自分の目で見ることが出来るなどと考えたこともなかったのだ。
「アグロアは風の民なんですか?」
「そうさァ」
 得意げに鼻を鳴らし、アグロアが首肯する。
 民。それは養父が教えてくれたことのひとつだった。
 自然界の四つの元素――火と風と水と大地。それぞれに愛され、祝福された、人でありひとではない種族。それぞれのコミュニティを持ち、それぞれで固まって生活をしていたという。このグレシス王国にも以前は多く存在したらしい。ただし、数年間の戦争で数はぐんと減少したといっていた。
 それがまさか、目の前にいるとは。
「すごいですー!」
「すごかァねェさァ。オイラ、生まれたときから風だかンな」
「そっか、そうですよね」
 肩を竦められて、トスティナは小さく笑う。
「アグロアはミズガルドさんと仲良しなんですか?」
「まァ、そんなところかなァ。あーんま話すと、あの兄ちゃん、機嫌悪くすっからなァ」
「ふたりとも、話しながら歩いてもいいけど転ばないのよ」
 カーラに注意され、トスティナは慌てて前を向いた。確かに、こんな森の中だ。迷っていたあの日も何度も転んだのは確かで、今日もそうならないためにはきちんと歩くことを意識したほうがいいだろう。
 とはいえ。
 再度トスティナはそっと肩越しに振り返った。白い葉をつけた木々の中に、埋もれるようにある赤い屋根の家が離れていっていた。なんとなく、胸の奥がしゅんとする。
「ミズガルドさん」
「うん?」
「わたしのこと、助けてくださったのに。わたし、お礼もちゃんと言えてないです」
「いいのよ。拾うのはあの子の趣味みたいなものだから」
 カーラが苦笑した。そのまま「ほら」と前方を指差す。視線をやると、木々の向こうに道が見えた。そこに、二頭だての馬車が停まっている。
「わ……馬車」
「そうよ。仕事用で悪いけどね。さ、乗って」
 促され、馬車に乗り込む。御者が一礼をしてきたので、トスティナはあわあわと頭をぶつけてしまった。カーラが苦笑しながら背中を押してきて、奥へと進められる。
 が、乗ってきたのはカーラだけだった。開いた窓から顔を出すと、風の少年はふわふわと浮いたままだ。
「アグロアは乗らないんですか?」
「オイラかい? んー、カーラ。スティンブルグ行きかィ?」
「当然でしょ」
「んーじゃ、乗らねェやァ」
 ぽんっ、と跳ねるように馬車から飛び退り、空中でアグロアが笑う。
「どうしてですか?」
「そーりゃァ、お嬢、風が街に行くときは、ぐーんっと上のほうを吹いていくか、超突風で吹き抜けるかしねェとだかンなァ」
「どうして?」
 アグロアが困ったように顔を歪めた。
「お嬢はあンま知らねェのかなァ。人の集まってるところにオイラたちみたいな民がいくと、風を捕まえようとするバカがいンのさァ」
 言うなり、ばーかばーか、とはしゃぐように繰り返しながら、アグロアがぐんっと空高く舞い上がった。白い葉がざざっと音を立てて何枚か降って来る。
 そしてすぐに風は見えなくなった。
「風は気まぐれだからね」
 ふっと短くカーラが息を吐いた。呆然としているうちに、カーラは御者に声をかけ、馬車はゆっくりと動き出す。がたがた、とお尻の下が揺れる感覚に、トスティナはどうしていいか判らず何度か立とうとしては転びかける。
「じっとしていなさい」
「だって、が、たがた、し、ますっ、し」
「これでもいい馬車なのよ。慣れてない?」
「はじめ、ってれ……っ!」
 噛んだ。
 思わず口を押さえてへたへたと座り込んだ。カーラの冷たい視線を感じる。
「おばか」
「……はぃ」
 涙目になりながら頷いた。今度はおとなしく座りながら、振動に耐えることにした。窓の外に目をやる。
 季節は短くも艶やかな夏。けれど、窓の外から見えるスレヴィの森の景色は、まるで雪でもかぶっているかのように白く生気がない。
 数年前までは。
 ふと、養父の言葉を思い出す。
 数年前までは、どこもこんなのではなかったのだがな、と養父は良く口にした。トスティナは養父の言う、緑の森というものは知らない。森の死化がはじまったのは十年ほど前だという。トスティナにとってそれ以前の記憶はなく、物事を意識するようになってから先、見続けていたのは白い森だ。
 死化の本当の原因は知られていない。一般的にそうでないか、と言われているのが、地の民の死だ。
 風の民が風に愛され、そして風に属するのと同じように、地に愛され地に属したとされる地の民は、先の戦争で民のすべてが絶えたと言われている。スレヴィの森の死化はその頃始まったというのだ。
 実際のところは誰にも判らないのだろう。判らないまま死化という病は森を覆いつくし、今では国の至る所で死化する木々が見られるという。
 トスティナにとっては、難しくてよく判らないことだった。ただ判るのは、死化する森がなんとなく寂しそうで、哀しそうだということぐらいだ。
 似ているな、と感じた。
 結局のところ、理由はどうあれ死化した森はもとの緑には戻らないのだろう。それは、理由も良く判らないまま村を追い出された自分と似ている気がした。
 十五になれば、村を追い出される。
 それは昔から養父に教わっていたので、いまさら誰を恨むわけでもない。ただ、なんとなく、寂しい。
 この感覚は森に良く似ていると思う。どことなく寂しい、陽光の中の白い森。
「ティナ?」
 カーラの呼びかけに、少しだけ微笑んでみせる。
「はい」
「街まで少しだけど、訊いていいかしら」
「なんですか?」
「魔法、学びたいの?」
 問いかけに、静かに頷く。
「わたし、出来ることってほとんどないです。簡単な計算とか、読み書きとかはおじいちゃんが教えてくれましたけど、特技って言えるのはなくて」
「ええ」
 揺れる馬車の中では、言葉はどうしても途切れがちになる。それでも、トスティナはカーラをまっすぐ見据えたまま、ゆっくり言葉を紡いだ。
「難しいことは良く判らないです。でも、これから一人で生きていくしかないならなおさら、何か、ちゃんとこれが出来ますって言えるのが欲しくて」
「それで魔法」
「目の前に、おじいちゃんの言ってた天才さんがいたから。それに、おじいちゃんの言葉もちょっと気になってて……」
 ――魔法は、いつかお前を助ける術になるかもしれない――
 あの夜ぽつり、と呟かれた言葉は、ずっとトスティナの中でくすぶっている。
「学んで、私が魔法を知れば、おじいちゃんの言葉もいつか判るかもしれない」
 カーラが曖昧に微笑む。
「実際、面倒よ、魔法って。取得したところで就職先なんて、魔法師団か薬屋か、そんなところがほとんどでしょうし。宮廷魔法師はなかなかなれるものでもないし。何より、いまどき体系立てていないのもどうかと思うけど、弟子をとってくれる師を探すところからはじめなきゃいけないし」
 そういう本人は、宮廷魔法師の印章を身につけているのだから皮肉めいても聞こえた。
 宮廷魔法師。通称【国王の為の七人】とも呼ばれる宮廷就きの魔法師たちだ。その名のとおり七人構成で、ほぼ王直属といっていいほどに王に近い場所にいるとされる。
 通常は騎士団と同じ位置にいる魔法師団から、成績の良い者が選ばれるというが、まれに直接宮廷魔法師になる者もいると聞く。
「あの、カーラさんはどうやって宮廷魔法師になったんですか? 魔法師団から?」
「あたし? そうよ。叩き上げ。まぁ、実際あたしも貴女と似たような理由で魔法に手を染めて、ずるずるとね」
 苦笑するように、カーラ。
 詳しく訊く気はトスティナにはなかったが、似た理由と言うからにはカーラもいろいろあったのだろうと想像はつく。
「ちなみに、ミズガルドはその頃のあたしの上官みたいなものね」
「えっ?」
「あの子はエリートだから、直接宮廷魔法師になったクチだったけど、ちょくちょく魔法師団に顔は出してたから。その頃に何となく仲良くなって、今に至るってワケ」
 トスティナは思わず感嘆の息を漏らしていた。ただでさえなるのが難しいとされる宮廷魔法師に、魔法師団からでさえなく直接なることがあるというのは、都市伝説的なものだ。実際にその道のりを辿ったというのだから、天才というのは事実なのだろう。
「ミズガルドさんもすごかったんですね」
 カーラが、どことなく誇らしげに微笑んだ。