プロローグ  九月はじめの朝


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 ゆっくりとひとつ、深呼吸をした。
 夏休み開けてすぐの始業式の朝だ。廊下にはざわめきが満ちている。
その空気の中で、あたしはもしかしたら浮いて見えるのかもしれない。
 教室の扉の前で、深呼吸をしているあたしは。
 目の前には、何の変哲もないただの扉。扉の上には『1‐4』と書かれたプレートがぶら下がっている。そのプレートを見上げ、あたしはじっと佇んでいた。
 久しぶりに袖を通した高校の制服。その重みに違和感を覚えながら、それでも、それを受け入れようとする。たった一枚。ほんの数センチの扉が、今はやけに分厚く思える。手のひらの汗で鞄が滑りそうになって握りなおした。唇を引き結ぶ。
 何の変哲もない、ただの扉。
 鞄を持っていないほうの手で扉の取っ手に触れた。
 一瞬だけ、目を閉じる。
 ――大丈夫。
 まぶたの裏には、あの島の陽射しが煌いている。
 目を開けて、あたしはゆっくり扉を開いた。


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