第三章:It is a wish to a star――願いかけた短冊


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 腰に付け直した剣の重みが、どことなく憂鬱で、そう感じてしまった自分が滑稽にしか思えなかった。
 剣は、いつもそばにあった。それは、自分を、大切な誰かを守るためのものだったから、いつもそばにあった。今もそうだ。自分の身を守るためのものなのだから。――隣にいるこの少年は、『敵』なのだから。
 それなのに。
「なんだ」
「え?」
 ふいに平坦な音が降ってきて、エリスは顔を上げた。怪訝そうに眉根を寄せたダリードと目があう。
「何故、急に黙る?」
「あ、いや」
 訊ねてきたダリードに、軽く首を振った。ゆっくりと歩くスピードは変えず、ごまかすために口を開いた。
「別に、なんでもないんだけど……」
「そうか」
 会話が、そこで途切れた。アレモドの村をゆっくりと散策して、それでも交わした言葉はこんな二、三言が精一杯だった。エリス自身、あまり人と喋ることは得意ではなく、ダリードにいたってはほとんど喋らないのだから、結果としてこうなるのは当然といえば、当然だったのだが。
 どうしようもない無言の空気を引き連れたまま、それでも心地は悪くなかった。無人の、祭のあとの村と、星空と。そこを二人で歩くのは、心地悪くはなかった。
「足はもういいのか?」
「あ……うん。癒してもらった、から……」
 小さく頷く。妙な感じだ、と思いながら手のひらを見下ろした。こっちはまだ、癒していない。包帯に巻かれた手のひらと、剥き出しの指。そっと剣の柄をなぞると、古い傷に触れた。二度、三度と柄の傷をなぞって小さな吐息を漏らす。
 我知らず俯いていた。ふと、顎をあげる。目の前に、大きな木があった。
「あ、これ。ゲイルの立ててた枝垂れ木だ」
「……?」
 疑問符を飛ばしてくるダリードには答えず、エリスは手を伸ばしてその葉に触れた。夜露に僅かに湿っている、細い葉。ジークの身長より高いだろうか。見上げてみると、細長いウィッシュ・カードがところどころに下がっている。
「なんかね、星祭でやるんだって、こういうの。ウィッシュ・カード……短冊、だったかな、そういうらしいんだけど。願い事をかいて、つるすって」
「変わったしきたりだな」
「まぁね。あ、あたしももらったんだよね、たしか」
 言いながら、ポケットを探る。星祭が始まる前に村長にもらったそれは、夕方すぎにアンジェラと二人で書いた。だが、すっかり吊るすのを忘れていて、ポケットに入れたままだったのだ。二つ折りになったそれを出して、皺を伸ばす。
 吊るそうかどうか、少しだけ迷う。迷いながら、エリスは吊るされている短冊に目を滑らせた。
 たどたどしい文字が、カードの中で踊っているのを見つけ、思わず微笑が漏れる。
「可愛いなぁ、これ。見てよ。『シャーリーンとずっと一緒にいられますように。アンセル』だって。可愛すぎるー。この村の子かなぁ」
 くすくすと軽い笑い声を上げる。そんな無邪気な願いが、とても眩しく思えた。
 だが、笑うエリスの横で、ダリードは多少戸惑いの表情を見せた。ややあって、訊いてくる。
「そう書いて、そう読めるのか?」
「うん」
 頷いてから、ふとエリスはダリードの顔を見上げた。
「……字、読めない?」
 訊ねると、ダリードはあっさりと首肯した。
「読めないし、書けない。俺がラボでならったのは、人の殺し方と魔法の使い方だけだ」
 言われて、エリスは唇を噛んだ。文字を認識できない人間が珍しいわけではない。ルナ大陸の識字率は決して低くはないが、高いわけでもない。国民がほぼ百パーセントの識字率を誇っているのは、義務教育をかしているスキル帝国とストレイツァ王国くらいだ。
 それはいい。だが、その後に続く単語には、頷くことができなかった。
「そんなの、哀しいよ……」
 呟いてしまってから、しまったと思った。そんなことを言ったところで、どうにかなるものでもない。むしろ、言われたダリードのほうが戸惑うだけだろう。軽く嘆息し、エリスはゆっくりと言葉を選んでつげた。
「ゲイルたちも、なのかな」
「いや」
 それには、再びあっさりとダリードは首を振った。
「あいつらは、外部班だからな。書けるようにはさせられているはずだ」
「外部班……?」
「ラボ外の任務も担当する実験体のことだ。俺は、ラボ内で実験詰めだったからな、文字を覚える必要がなかったんだ」
 言いながら、彼はものめずらしげに短冊を眺めていた。読めなくとも、興味はあるのだろう。
「もしかして、さ」
「なんだ」
「……今まで、外に出た事なかったり、する?」
「ラボの敷地内で散歩程度なら、あるが。あそこからでたのは」
 ダリードはほんの一瞬口をつぐんでから、
「――ラボを抜け出したときが、初めてだな」
 そう、音を漏らした。
 エリスは、やや重い息を吐いてから、顎をぐっと空に向けた。まだ、朝焼けはこない。
 喉を一度上下させてから、自分でも呆れるくらいトーンの高い声を出した。無理やり笑顔を作ってみせる。
「じゃーさ、あたしが教えてあげるよ、文字」
「……は?」
 眉根を寄せた彼の腕をつかんで、地面に一緒にしゃがみこんだ。先ほど出した短冊を見せて、
「これ。あたしが書いた分ね。ここに書いてあるのは『自由になる』って読むの」
 あまり上手ではない文字を指でなぞって笑う。ダリードは一瞬目を瞬かせてから、その下にある文字をさした。
「こっちは、お前の名前か?」
「うん、正解。エ・リ・ス――エリス。このつづりだと、ほんとは男性名なんだけどね、家の事情でこんな名前なんだ。嫌いじゃないけどさ」
「家の事情?」
「女はね、あんまり必要ない家系だから。皮肉もこめられてる」
 小さく笑う。それでも、名前は嫌いではなかった。ダリードが曖昧に頷くのを見てから、エリスはその短冊を裏返した。何も書かれていない裏面をさして、
「こっちも書けるからさ。あげるよこれ。ダリードくんも書いてみなよ。こんなの、迷信だけどさ、でも、案外叶ったりするかもよ?」
 そうじゃなかったら、こんなにたくさんの人が書いたりしないでしょう? ――と、エリスは大雑把に枝垂れ木と、それに吊るされている短冊を示した。
 ダリードは一度ゆっくりとその木を見上げ、それから、エリスが渡した短冊を見下ろした。澄んだ黒瞳が、それを見据えている。
 ややあってから、彼は口を開いた。
「無駄だ。文字も判らないしな」
「だから、教えてあげるって言ったの」
 間髪いれずにエリスは言うと、地面の大まかな石を手で払った。包帯が少し汚れたが、気にする必要もない。その辺りに転がっていた小枝を手に持つ。
「えーと、ダリードだよね。家名はある?」
 ゲイルやドゥール、プレシアのように、あるのだろうと思ってエリスは訊ねた。案の定、少し迷ったようだったが、ダリードは答えてくる。
「ズロデアフ、だったと思う」
「ズロデアフ……って、珍しい響きだね。どっちかって言うと北部かなぁ。んーと……」
 エリスは少し首をかしげて、ゆっくりと地面に文字を書いていった。
「ダ・リ・−・ド……。ズ・ロ・デ・ア・フ……。これでいいの、かな。名前ってつづりいっぱいあるから、正確かどうかは判んないんだけど、たぶんこれでいいよ」
 書きあがったそれを、こつんと小枝でさした。さすがに見えにくく、ダリードも目を細めた。それでも、じっとそれを見つめている。上手いとは言いがたい、その文字を。
 そして、ポツリと呟いた。
「読めない」
「いやそりゃそうだろうけど。――あんたの名前だよ。ダリード・ズロデアフ」
 言って、エリスはゆっくりとつづりを辿った。ダリードの目も、同じように動く。ほっとしたような気分になって、エリスは微笑した。
「書いてごらんよ、自分で」
「……必要ない」
「そんなことないよ」
 エリスは笑いながら首を振った。
「大切だよ、名前って。あたしは、言えた義理じゃないかもしれないけどさ。でもそう思う。名前って、その人を表す言葉だから。ダリードくんなら、ダリードって名前は、あんたを表す文字なんだよ」
 ダリード。エリスは地面に書いたその文字をもう一度見た。右上がりの癖字。それは、エリスが書いたこの少年を表す文字だ。
 ダリードは一度黙考した。その文字と、渡された短冊とを交互に見つめる。そうして、暫くしたあと、低く言ってきた。
「考えておく」
「……ん」
 短冊を無造作に懐に入れ立ち上がった少年に、エリスは頷いた。追うように立ち上がる。
 ダリードは、ゆっくりと村の入り口、林のほうへと歩き出した。
「もう行っちゃうの?」
 背中に声をかけると、彼は立ち止まった。
「ああ」
 感情のないような、淡白な声で答えると、ダリードはこちらを振り返ってきた。
 そして、右手を小さく動かして――
 ――反射的に、エリスはそれを受け取って、目を瞬かせた。
 ダリードが投げてよこした、エリスのお守りであるペンダント。月の石を、だ。
「……なんで?」
「情けで貰うものは要らない。俺は俺の手で、お前からその石を奪う」
 そう言われて、実際どういう感情で彼がその言葉を吐いているのかが判らなかった。目を見据え、ゆっくりと頷く。
「了解」
 戻ってくるのなら、それにこしたことはないだろう。そう自分に言い聞かせ、エリスは月の石を再び首にかけた。僅かな重みが、安堵感をうんだ。そう気づき、思わず苦笑する。
「矛盾してるな、あたし」
「?」
 眉根を寄せることで疑問を投げかけてくるダリードに、軽く肩をすくめて見せる。
「そう思わない? あたしは、月の者になんてなりたかったわけじゃないし、そんなものは要らないって、ずっと言ってるのに。なのに、これをお守りにして、すがってる。矛盾してるなぁ、ってさ」
 ペンダントを弄(もてあそ)ぶ。なによりも、自分を縛る鎖の主張であるそれを、どうして捨てられないのか判らない。本当は捨てればいいはずなのだ。月の者という立場を忘れることが出来るかもしれない。家を捨てたように、石も捨てればいいだけなのだ。
 なのに、捨てられない。お守りになってしまっている。
 おかしなことだ、とエリスは思った。
「誰もが、みな、矛盾している」
 ――と、ふいに言葉を漏らしてきたのはダリードだった。
「誰もがみな矛盾している。矛盾して生きている。俺も、お前も、誰もかもが、そうだと思う」
「……かも、ね」
 ふぅと息を漏らす。それから、エリスは頬を歪めて訊いた。
「ね、何でこの石を狙ってるの? 単なる月の者の証だって、ドゥールは言ってたけど」
「それは、あいつが知らないだけだ。月の石の本来の力は、月の者が持つことで発する。月の者が月の石を多数持てば、月の者の力は増す。――お前がその石を外したがらないのは、無意識のうちにそれを判っているからだと思った」
 そう言われて、エリスはさすがに目を見開いた。この、ただのちっぽけな赤い石にそんな力があるとは思わなかったのだ。
「俺は強くなりたい。だからその石がいる。それだけだ」
「……なるほど、ね」
 小さく頷く。誰もが全てを知っているわけではない。誰もが欠片しか情報を得ていない。ばらばらの、しかも少しずつ提示されるパズルのピース。それを必死になってかき集めなければ、いけないのかもしれない。
「俺はもう行く」
 ダリードの声に、エリスは知らずにおちていた視線を上げた。少年と視線が絡み合う。
 ダリードは、相変わらずの無表情な声で、言った。
「次に会った時にはお前を殺す。エリス・マグナータ」
 ――殺す。
 ぎゅっと、ペンダントを握った。法技が使えない状態のこの村で出会ったからこそ、今はこうして話していられただけなのだ。それを認識しなおす。張り付いた喉を無理やりはがし、エリスは頷いた。
「……ばい、ばい」
 子供じみた挨拶だと、思わずにはいられなかったけれど。
 ダリードが歩き出す。一歩、また一歩、遠ざかる少年の背中。
 それが、急に――崩れ落ちた。
「ぐっ……」
 呻き声と同時に、ダリードの体が地面に倒れたのだ。
「っ! ダリード!?」
 とっさに声をあげ、エリスは走りよった。
 ダリードはしゃがみこみ、脂汗を浮かべながら頭を抱えている。
 何かに耐えるかのように、きつく歯を食いしばり、目をつぶっていた。
 酷い頭痛か、何か――そんなものにおかされているかのような、彼の姿に、エリスは思わず少年の肩をつかんだ。
「なによ、どうしたのよ、ダリード!」
「く……るな! ……お、れ。……は」
「ダリード!」
 声を荒らげる。と、ふいにダリードが目を開けた。淀んだ黒瞳。思わず、背筋に悪寒が走り数歩さがった。が、次の瞬間、ダリードの手がエリスの首を捕らえた。

 ギッ。 

 唐突な、急激な力で、締め上げられる。
「ぁ……ッ」
「こ……ろ、す」
 容赦なく食い込んでくる、少年の指。
 息が詰まる。視界がかすむ。意識が、ホワイト・アウトしそうになる。
「ダリード……く……」
 ひしゃげた、音にならない言葉が漏れた。
 その瞬間、ダリードの淀んでいた目が、力いっぱい見開かれた。
 叫び声が、遠く聞こえた。――遠く? いや、すぐそこで、だ。目の前で、少年が叫んだ。
「だ……め、だ。ちか……よる、なっ!」
 
 ――ドンッ。

 後方に跳ね飛ばされる力に、エリスは逆らえなかった。
 地面に背をしたたかに打ち、急激に肺に流れ込んでくる空気に悶える。咳き込みが、暫くは止まらなかった。それでも、涙にかすむ視界の中で、エリスは無理やり顔を上げた。
 ダリードが立ち上がり、頭を抱えている。
「俺は、命令に従う、から。――こんな真似は、しないで、いい」
 ぼそりと、呟き。
 そして次の瞬間、ダリードの姿はそこにはなかった。
「ダ……リード、くん?」
「甘くなった坊やは、必要なくなっちゃいますよ」
「っ、誰!」
 ふいにどこからともなく降ってきた声に、エリスは適当に叫び声を上げた。まだふらつく脳内の中で、それでも必死に音の元を探る。
 しかしその声は、どこから降ってくるのかわからなかった。柔らかい女声だ。
「これだけじゃ、つまらないですわよね。少しだけお手伝いして差し上げますわ」
 その言葉と同時に、空間が歪んだ。
 ――いや、実際にそんなことがあるはずがない。そうは思う。ここは、アレモドの村の真ん中で、アレモドの村にはジークが結界をはっているのだ。いや、そんなことよりも、空間が歪むなど、馬鹿げた発想でしかない。
 だが、実際そう見えてしまったのだ。
 水鏡に石を放り込んだときのように、風景が歪んだのだから。
 そしてその歪んだ風景が元に戻ったとき、そこにあったのはダリードの姿でも、声から想像するような女性の姿でもなかった。
 炎に包まれた、双頭の狼――
「っ!」
 まだ血の行き届かない頭で危険を察し、エリスはふらつく脚に活を入れて後方に跳んだ。剣の柄に手が伸びる。
 どく、どく、と、鼓動が必死に音を立てていた。心臓が、血を体中におくろうと動いていた。
 双頭の狼の、四つある瞳を一度に見据え、エリスは剣を引き抜いた。
 声が、柔らかい女声が降って来る。
「遊んであげてくださいね、私の可愛いペットと」


「エリスちゃん!?」
 裏返った、その声に安堵を覚えるのは間違いだったのかもしれない。
 彼は、味方ではないのだから。けれど、今のところ敵でもなかった。
 それを認識して、エリスはふらりと地面に倒れこんだ。
「エリスちゃん!」
 足音が近くなり、声はすぐに傍にやってきた。案外かたい腕に、支えられる。
 ゲイルだ。
「……遅いよ」
 地面にすでに倒れている双頭の狼を見据え、エリスはぐったりと呟いた。右肩が痛い。戦闘の際に、噛まれてしまったのだ。なんだか最近は怪我ばかりしているような気になってきた。
 それでも、生きているだけましなのかもしれない。
 剣を地面に付きたてたまま、エリスは大きく肩で息をしていた。
「ごめん。これは、なにがあったんだい? こいつは……」
「あたしが、殺した」
 剣にはべっとりと黒い液体がくっついている。それをなるべく見ないように、エリスは視線を落として唾を吐いた。
 右肩を左手で抑え、毒づく。
「なにが、なんだか。何とか、勝てたけど。やばかった、し」
「……もしかして、ダリードかい?」
 ゲイルの言葉に、エリスは顔を上げた。碧色の瞳を見据え、首を横に振る。
「ダリードくんは、きてた。話をした。けど、これはダリードじゃない」
「じゃあ」
「判らない。誰かが、こいつをよこしたみたいで。それで……」
 血が足りないのかもしれない。くらりと地面が揺れ、それが貧血の症状を訴えかけている。
「喋らないでいい。……酷い怪我だよ。肩、感覚はあるかい?」
「このくらいはなんでもないから」
「エリスちゃん」
 たしなめるようなゲイルの声に、エリスは鼻から息を吐いた。
「ホントに。このくらいはなんでもないから。――みんなは寝てるの?」
「あ、ああ。……おかしな魔導かけられたみたいでね、起きないんだ」
(それも、あの『女声』がやったこと――?)
 支えてくれているゲイルの腕に指を食い込ませ、エリスは唇を噛んだ。訳が、わからない。ほんの少しでも気を緩めたら、これだ。
 空を見上げる。月はないのではない。あるのだ。いつだって、そこに。ただ、見えないだけだ。それを思い出す。
「ゲイル」
「……ん?」
 肩の怪我を、心配げに見ていたゲイルが言葉の続きを促してくる。
 彼の瞳を見据え、エリスは脳裏に今夜のことを思い浮かべた。告げる。
「――あたし、白竜にあいたい」
「エリスちゃん……?」
「約束したんだ。ダリードと。……約束したことが、あるんだ。だから……」
 視線を落とし、呟く。

『あたしが、四竜にあって、けど、あたしはあたしでいられることを、ルナのためじゃなかったってことを証明してあげるわよ!』

 こんな程度のことで、恐れている場合ではなかった。
 血の匂いが鼻を突く。
 吐き出しそうになりながら、それでも、エリスはゆっくりと深呼吸をした。
「証明したい。するんだ。誰があたしに何を望んでいるのかは知らない。それでも、あたしはあたしだってことを、証明しなきゃいけないんだ」
 戸惑ったようなゲイルの目を見据え、エリスはきっぱりと告げた。
「だから、前に進まなきゃいけないから。これくらいの怪我は、どうってことないんだ。早く、白竜にあいたい」
 その言葉に反応するかのように、アレモドの村に風が吹きぬけた。
 アレモド――何もない、その村に。
 星だけが輝く、その村に。


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