夜に降る雨が好きだ。
 明かりを消した部屋の中を、強く、時に弱く満たしていく雨音が好きだ。
 何故か懐かしい雨の音に抱かれる夜が好きだ。


 さぁ。さぁ。さぁ。さぁ。


 途切れなく続く雨音は、ただそれだけで心を穏やかにしてくれる。静かに響き渡る雨の気配は堪らないほどの優しさを抱いている。
 そして僕は理解する。ゆりかごのように揺れる雨音に抱かれ、それが生まれる前の記憶に繋がっていることに。
 ああ、そう。これはこの世界に生まれ落ちる前の僕らの記憶。生物の記憶。


「ねえ?」

 不意に隣で気配が囁く。小さく微笑みを浮かべて向き直る。


「もう寝なよ」
「あなたもね」


 悪戯っぽく呟かれる言葉に、軽い口付けで答える。握り合った手のひらのぬくもりを感じて瞼を閉じる。愛しい君の腹部にそっと触れた。

 そこにある、確かな生命。

 ああ、そう。君はまだ世界の光を見てはいないけれど、君と僕は今この瞬間、確かに繋がっているね。



 雨音という母の鼓動のその中で。

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400ブロック参加作品。
読みやすくするために改行&文頭一字あけをやってますが、それぬきだと句読点含めてぴったり400字です。